2010年7月11日日曜日

僕の青春はいまは何章目くらいだろう

僕には弟が一人います。名はケンジ(仮)。
僕と違い三次元の中に生きる男で、スポーツ万能。
中学生ながらアイスホッケーの名選手で、今年ついにその腕を生かし有名高校への推薦をもぎ取ったツワモノです。

現在はその高校に通うため、親元を離れ下宿で暮らしています。
わが弟ながら、立派なものです。頑張ってほしいものだ。

さて、そんな弟とは対照的にクズロードまっしぐらの高校三年生の俺。
ついこの間も最後の学園祭で時間を持て余しのんべんだらりと過ごしていた所です。

本日のネタは、長い。
全ての始まりは、学園祭でカレーを食うために並んだ列の後ろから聞こえてきた会話からだった…。


「…でさー、一日の予定とか立てて、主人公を育てるのよ」
「へー。」

思わず耳をそばだてる僕。
会話の中にゲーム的な単語があれば反射的に耳が動くのは、きっと僕だけじゃないはず。

「女の子によって上げるパラメーターが違うんだよ」
「へー。面白そう」

ふむ、と一人でうなずく僕。
この会話なら、きっと主人公育成型のギャルゲの話なのだろう。

「登場するのって、あのツンデレ系の…」
「そう。それとお姉さん系と、お嬢様っぽい子」

ほう!
頭の中に、何かに閃いたような!マークが浮かぶ。
このヒロインの系統なら、恐らく話している内容は「ラブプラス」だろう。

ラブプラス──DSでギャルゲという珍しいジャンルにありながら、
性能の良さゆえに「オリジナルとしての人気」を多く集めた近年稀に見る良作。

その存在を知らなかった僕ではない。
否、正統派ギャルゲの正統派ツンデレキャラ・小早川凛子に至っては何度も攻略を夢見てさえいる。

だが──僕はあくまで高校三年生。
明らかに無理な志望校を今だ懇願する身としては、このような時間圧縮機をむざむざ購入するわけには行かない───と、あえて僕は背後の女性二人の会話を聞き流した。

しかし人間、一度スイッチが入ると中々収まらない。
その時の僕の中には、脂ぎった顔にべとべとの前髪を垂らした、醜い眼鏡の小男がいた。
それはギャルゲーマーとしての、「萌え」を探求する研究者としての「俺」であった。

──何故、買わない。

つばの多いねっとりとした口調で、俺が僕に語りかける。

──僕には、このゲームをプレイする余裕など無いからだ。
──ならば貴様は見逃すのか。このギャルゲーを。現代ゲーム技術の粋を集めて作られた、この歴史的ゲームを。
──それは………。

少しの躊躇い。やがて僕は毅然と答える。

──もちろん買うさ。一段落ついたらね。

しかし俺は、まるでそう答えるのを待ってたかのように口の端を吊り上げてにやぁと笑った。
それは隙だらけの獲物を見つけた獣のような、いやらしい笑みだった。

── 一段落とは?
──僕は大学に受かってからラブプラスを買いに行く。
ちょっと買うのが遅れるだけだ。問題は無い───

ばき、と 僕の鼻っ柱に鉄槌が打ちこまれる。
勢いのままに、頭の中の僕はしたたかに身体を打ちつけた。

──阿呆がッ!

俺は、咆哮する。
瞳の奥に宿る情熱の眼をぎらつかせ、僕の首をつるしあげた。

──ラブプラスのキャラクターの年齢はッ!
──な…なんだそれは!?
──答えろ!貴様は知っている筈だ!
──くっ…こ、高校生だろ………ッ!?

口に出した瞬間、“高校三年生の僕は言わんとする事の全てを理解した”。

──そうだ…貴様は今まさに、ラブプラスの舞台に立っている。
それだけじゃあない。ほぼ全ての学園モノの舞台となりえる場所に、今の貴様はいるんだ!
──け…けど…そんな…“そんな理由で”っ!?
──「聖地巡礼」を知っているな?
鷺ノ宮神社、溝ノ口、諏訪など、架空の物語の舞台を訪れる事で
物語との「接点」(リンク・ポイント)を見出す輩の事だ!
理解るか…?ちっぽけな「僕」ちゃんよ…。貴様は今…
毎 日 、
 ラ ブ プ ラ ス の 舞 台 を
  聖 地 巡 礼 し て い る ん だ !

があん、と、頭を樫の木でぶっ叩かれたような衝撃が頭を貫く。

──高校に通う今プレイしなくてどうする!?
貴様の高校生活はあと六ヶ月!それは過ぎれば二度と戻らないものだろうがっ!
大学生からのラブプラスプレイで得られるものは、ただ「あの頃に戻りたい」という郷愁感!
対して高校生活中の今から始めれば、毎日がラブプラスの舞台とともに在れる!

──……夢を見たいか、小僧。

俺は人差し指を僕へ付き立てて続けた。

──廊下で美少女とぶつかりたいか?放課後の教室で美少女と二人っきりになりたいか?美少女の後輩と一緒に帰りたいか?下駄箱にラブレターを入れられたいか?美少女の幼馴染と屋上で昼飯を食いたいか?調理実習で作ったクッキーを手渡されたいか?放課後のプールに忍び込みたいか?いじめの現場を防いでやって好感度急上昇させたいか?

──そんなことは現実では起こり得ない。
俺の醜さを見ろ。俺も、お前も、現実はたった一人の女と私的な会話をすることなく高校生活を…否、下手をすれば生涯を終える。

──だったら…僕はどうすればいい!?
──それは…「想像」するんだ、俺の中の僕よ。

──「想像」…?
──そうだ。

──曲がり角を曲がれば、そこで美少女とぶつかる事を想像しろ。
──放課後の空き教室を見れば、そこにいる美少女を想像しろ。
──下校は、隣にいる美少女を想像しろ。
──下駄箱にあるラブレターを想像しろ。

──この果てしなく理不尽な世界をちょっとでも楽しむために、全てのイベントを創造しろ。
──そしてより良き想像を創造するために…買うべきなんだ、俺の中の僕よ。




僕は、ラブプラスの購入を決意した。




翌7/11、早速いつもの自転車をくりだし街へGO。
ここでひとつ至言。「ゲームは足で買え」。
これは決してゲームをカウンターまで足で運べと言っているのではなく、一件でも多くのゲームショップを見て1円でも安い所を探せと言う事。
俺はそれに従い、走る走る。とにかく走る。
時々休んで、また走る。

かれこれ5件くらいめぐった所で、結局一番安かった某所ゲームショップの中古版3980円を購入する事に。+版なのにもう中古版が出回っているなんて、すごく切ない。
切ないが、今の俺にそんな事を言っていられる余裕も無く、兎にも角にも購入。
はやる気持ちを抑えつつ、帰り道はちゃっかり書店へ寄って平野浩太の「ドリフターズ」を購入して帰った。


そして帰宅。

まずはドリフターズを読。
カバー裏から見るべきか、本編から見るべきかを数分迷って本編からにした。
カバー裏は相変わらずの滅茶苦茶っぷり。さすが平野浩太、と舌鼓。

ドリフターズを満喫した所で、小休止。
落ち着いた所でいよいよラブプラスを楽しむ事に。

………………?

俺の頭に疑問符が浮かぶ。
いつもの場所に置いてあるはずのDS本体が見当たらない…?

俺「母さん、ここにあったDSは?」
母「DSならケンジ(仮)が下宿に持って行ったわよ」

──ケンジィィィィィィィィッッ!!!!

俺は咆哮したのだった。完。

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