2010年4月23日金曜日

僕がオタクになった理由。

押切蓮介の「ピコピコ少年」を拝読したら、柄にも無くゲームにまつわる思い出を思い出した。
俺が初めて購入した美少女ゲー、「To Heart」についてである。

購入したのはいつだっただろう。プレイしながら「今年受験なのにこんな事やってていいのかな」と思っていたからおそらく中3だ。
あれからきっちり3年。せっかくなので、ここで一つあの頃のときめきと衝撃を思い出してみようと思う。


───以前より美少女ゲームという物が存在する事は知識として知っていた。
詳しくは知らなかった。とにかく美少女がたくさん出てくるという、ただその程度の認識だったと思う。とにかく、そのようなジャンルがあるということだけは知っていた。
その頃より二次元の女性の可愛らしさに勘付いていた俺は、当時主流だったPS2の美少女ゲームのパッケージを監視カメラに映り過ぎない程度に眺めるのが好きだった。
インターネットは我が家にも2年前から配備されていたが、ネットという情報の海で美少女を見つけ出せるほど俺の技量はなかったのだ。
故に俺は、美少女が見たいというその願望をもっぱらアナログの世界に求めた。
監視カメラの位置を気にしながら、死角を見つけてはヤンマガやヤンジャンの単行本を盗み見つづけていた。

それは中三の四月~五月あたりの事だったと思う。
俺は普通に学校から帰り、普通に食事をとり、そして弟の習い事の余波でいつものように御留守番をしていたとき、俺は不意に強く思った。

ギャルゲーがやりたい、と。

ギャルゲーがやりたい、ギャルゲーがやりたい、ギャルゲーがやりたい。
美少女達をめぐるロマンスを最初から最後まで、家のテレビで、誰に邪魔されること無く見尽くしたい。

それは例えば、お気に入りの漫画の最新刊が発売前なのにどうしても読みたくなるような、そんな気持ちにひどく似ていた。
どんなキャラがいるのか、主人公はどんな風に動かせるのか、どんな振る舞いをみせてくれるのか。ひょっとしたらエロいものなのだろうか。
ビジュアルノベルスという形式を知らなかった俺にとってギャルゲーとは、果実が実る未開の密林
のようなものだっだ。

しかし当時俺は無知であり、また小心者であった。
当時の小遣いは一月500円。ゲームの新品は少なく見積もっても3000円はかかる。

───もしも予想と違ったら。

俺は中古ゲーム屋へのペダルを漕ぎ出せず、代わりにネットの海へ身を投じた。
培った拙い検索技術を駆使し、ブラウザで出来るフリーのギャルゲーを探し始めたのだ。

ダウンロードは何かの記録が残るからダメ、ブラウザはページを開くだけだからOK。
ゲームをやるのにわけの分からない自己規約があったあの頃(今でもちょっとある)。
ダウンロード式のギャルゲを弾き、ひたすらブラウザ版のギャルゲを探しまくった。

フラッシュサイトから、3件見つかった。

しかし無料公開のブラウザゲーに、おまけにギャルゲーなんてマイナージャンルに、
期待するほどのクォリティーが、あるはずがなかった。

一件目は絵が素人。
二件目は同人ゲームのサンプル版。
三件目はツクール作品。キャラはそこそこ可愛くとも、内容なんてあってないようなもの。


俺は逃げるように中古屋に走った。
ネットで中途半端なギャルゲーをプレイした事が、俺の購買意欲をさらに過熱させたのだ。


当時我が家にはPS2がない。あるのはスーファミ、64、そしてプレステ。
長年のゲーム屋冷やかし暦から任天堂よりもSONYが多くのギャルゲを出している事を知っていたので、俺は迷わずどんどん縮小されていっているプレステ専用ソフト売り場へ忍びこんだ。

どこだ…ギャルゲーはどこにある…

血走った目でタイトルをひとつひとつ改める。
プレステとはいえ、ギャルゲーの数なんて他のゲームに比べれば圧倒的に少なかったからだ。

ドット絵で描かれた古めかしいタッチの美少女が映るパッケージを数個発見する。
俺はその中で最も美少女の顔が大きく映った、一番買うのに躊躇しそうなパッケージのゲームを手に取った。

今となっては「同級生」や「ときめきメモリアル」のようなドット調のあのタッチも嫌いじゃないと言える。
しかしギャルゲーに飢えていた中三の俺は、今よりもずっと正直だった。

───こっちのほうが絵がずっと綺麗じゃないか。

そうして手に取ったのが、俺にとっていずれ運命のゲームとなる「ToHeart」だった。

表面にはメインヒロイン・神岸あかりの顔がアップで映っている。
ついこの間ちょびっツ全巻をまとめてレジに持って行った時の事を思い出しつつ、初々しいほどの恥の概念から俺は裏面を前にしてレジに出した。

バーコードは表に付いていた。容易くひっくり返されるソフト、映り出すあかりのドアップ。

「ああ、俺はオタクなんだな」と、この時遅まきながら理解した。


プレステにセットし、心臓を高鳴らせながらロード画面を待つ。
アクアプラスの滑らかな提供の動き(当時64とスーファミが全てだった俺にとって、この提供の動きも結構衝撃だった)、ついにOPムービーが流れる。

映し出される教室の風景と、OPテーマ。
説明書で確認した通りの美少女達が踊り出て、俺は喜びと期待で奇声を発してしまいたい衝動に駆られた。

─────ひゃァァァァァーーーーーッホゥッ!

実際に奇声も上げた。




それから俺は、天国のような高校生活を送った。
金髪のグラマーな生徒に廊下で抱き付かれ、落ち着いた幼馴染には手作りの弁当をもらい、
そそっかしいメイド型ロボットを階段で受け止め、男女の隔てないグループでゲーセンやカラオケで遊んだ。

そして、先輩と出会った。

来栖川芹香先輩。俺のメインヒロインである。

おっとりとした、という言葉が非常にしっくりくる超巨大財閥の令嬢。
普段はそんな事を露とも感じさせないぼーっとした女性だが、時折見せる聖母のような包容力にその肩書きの意味を見出す事がある。
オカルトが好きで、儀式用の魔女の黒帽とマントが似合う。不吉な取り合わせだが、彼女の持つほんわかオーラにかかればそれすらも可愛らしさを引きたてるための装飾になる。
また、それが自己主張することはないが、かなりのナイスバディ。
愛しい人のためならパーティを抜け出すような大胆さも持ち合わせており、それでいてどこか抜けたぽやんとした魅力を持つ。

一目惚れ、という表現は嘘になる。
落し物の「黒魔術の大系」を上級生のクラスへ届けに行ったときは「可愛いな」くらいの感情しか持って居なかったし、実際その時は攻略ルートをレミィにするか先輩にするか悩んでいた自分がいたのもまた事実だ。

しかし、やがて先輩と会話して行くうちに、俺の心境に変化が現れた。
先輩のCGを見るうちに、俺の中で先輩の存在がどんどん大きなものになっていった。

これは「萌え」では片付かない。
言うならば、「恋」という言葉こそがふさわしかった。


やがて数日掛けて、俺は来栖川芹香ルートをクリアした。
最後のCGを見た俺は、泣いていた。

泣くようなシナリオじゃないはずなのに。
俺は幸せそうな主人公と憧れの先輩をみて、感動の涙を流していた。


───思えばあれが全ての始まりだった。
俺は積極的に二次元の美少女を求めつづけ、やがて本物のオタクになった。


「To Heart」に出会えたことは、俺にとって幸運でもあり不幸でもあった。
何故なら、それは俺に薔薇の茨で出来た道を歩ませたからだ。




明日は土曜日。久しぶりに「ToHeart」をプレイしてみようと思う。
浩之のしょーもない軽口を聞くために、そして、愛しい先輩に会うために。

0 件のコメント: